バッタもん日記

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飼料稲・飼料米 その3 作物としての特徴2

今回は、飼料稲・飼料米の品種改良について説明します。

まず、専門用語の解説をしておきます。
品種改良を「育種」と呼びます。英語では「breeding」です。育種の技術者、研究者を「breeder」と呼びます。ペットを飼育したことがある方ならば「ブリーダー」という言葉をよく聞くと思います。
作物の面積当たりの収穫量を収量と呼びます。単位はkg/10a(10aあたりのkg)を用いるのが一般的です。参考までに述べておくと、日本の食用米の収量は玄米で500-600kg/10aの範囲です。飼料米では1000kg/10aに達することも珍しくありません。

次に、作物の品種改良の目的を解説します。品種改良の目的は、大まかに言って以下のような点の改善・向上になります。

(1)収量
これはわかりやすいと思います。食料生産を増加させるためには必須です。
(2)品質(味・栄養価)
これもわかりやすいと思います。コシヒカリは味の点で日本が世界に誇れる米です。
(3)耐不良環境性(低温・高温・乾燥・多湿・やせ地etc)
北海道で米を作るためには耐寒性の品種の開発が不可欠でした。
(4)耐病害虫性・耐雑草性
農薬による病害虫や雑草の防除には限界がありますので、作物自身に病害虫や雑草を克服する能力を持たせます。

やっかいなことに、これらの能力はいずれも互いに相反する点があります。作物に全ての能力を完璧に備えさせるのは不可能なので、目的に応じて必要な能力を伸ばし、他の点では妥協することになります。言い換えれば、何かを得るためには他の何かを犠牲にせざるを得ないのです。例えば、先に述べたコシヒカリは味の点では最高ですが、いもち病という病気に弱いとされています。また、発展途上国では農業インフラの整備が進んでいないので、(3)(4)を重視する傾向が強くなります。ところが、(3)(4)に優れた作物は(1)(2)に劣ります。

現代の日本の食用米では、主に(2)を重視した育種が行われています。米が余って久しい時代ですので、(1)は重視されません。農業インフラが整備され、肥料・農薬も十分に手に入りますので、(3)(4)もそれほど重視されません。もちろん、環境負荷軽減のために、減農薬に向けた育種は盛んに行われています。
参考
コシヒカリBL(新潟県)

飼料稲・飼料米の育種の方向は、食用米とはかなり違います。

(1)は非常に重視されます。先に述べたように、飼料米では食用米の2倍の収量が得られる場合もあります。飼料稲では植物全体を粗飼料として利用するため、茎や葉が多くなるように育種が進みます。一方の飼料米では利用するのはもみ(米)の部分なので、もみが多くなるように育種が進みます。飼料稲・飼料米は他の飼料に比べてどうしても価格が上がるので、大量生産により単価を下げる必要があります。

(2)について、味はあまり重視されません。家畜は人間ほど味にうるさくないからです。面白いことに、米ではタンパク質(アミノ酸)が増えると味が悪くなるとされています。したがって、食用米ではタンパク質を減らして味がよくなるように育種が進みます。言い換えると、栄養価を犠牲にして味を高めているわけです。家畜の餌として考えると、タンパク質は重要な栄養分ですので、タンパク質が増える方向で育種が進みます。つまり、積極的にまずくしていると言えます。農水省の研究者に話を聞くと、飼料米は炊き立てならば十分食べられますが、時間が経つと非常にまずくなるそうです。
他にも、食用米では見た目も重視されます。白米に精米した時に見た目が悪いと商品価値が下がりますので、見た目が良くなる方向にも育種が行われます。ところが、家畜は見た目など気にしませんので、飼料米では見た目を良くするための育種は不要になります。

以上のように、飼料米は食用米より著しく見た目や味が悪いため、飼料米が食用米に混入されるという不正を防ぐことができます。
参考
飼料用水稲品種「モミロマン」の育成(作物研究所)

(3)については、私が知る限りでは食用米とそれ程変わらないようです。

(4)に関して、前の記事で述べたように、飼料稲・飼料米は食用米より病害虫や雑草に強いようです。また、除草剤に弱いとされています。まだ栽培の歴史が浅いので、今後は新たな農薬の開発と、育種による稲自身の耐性の強化が必要と言えます。