バッタもん日記

人生は短い。働いている暇はない。知識と駄洒落と下ネタこそ我が人生。

日本で無農薬農業が難しい理由

1.はじめに

日本では有機農業や無農薬農業はあまり普及していません。一方、EU諸国では有機農業や無農薬農業はある程度普及しています。また、ネオニコチノイド系農薬はEU諸国で規制が強いのに対して、日本ではそれほど厳しくは規制されていません。有機農業の普及状況について、農林水産省の資料(有機農業の推進に関する現状と課題 生産局 農産部 農業環境対策課)より作成した資料をご覧下さい。

差は歴然ですね。なぜ日本ではEU諸国に比べて有機農業や無農薬農業の普及が遅いのか。今回はそれを考えてみたいと思います。


2.自然条件

結論から先に行ってしまうと、「日本の自然環境では無農薬農業が難しいから」ということです。原因は、気温と降水量です。日本は温暖多雨のため、雑草・害虫・病原体の活動が盛んになるので、農薬に頼らざるを得ないということです。図で簡単に説明します。

これらの数字を見れば、日本の気候条件では無農薬農業が難しいことがよくわかると思います。日本の夏の暑さと雨の多さを考えれば、農業者に無農薬栽培をしろと要求するのは無体な話です。
どうしても無農薬でなければ嫌だという方は、真夏の炎天下の水を張った水田で一日中草むしりをして農家の苦労を実体験して下さい。あるいは、農家と個人契約して米1kgに2000円ぐらい払って支援して下さい。


3.政治・経済条件

つい先日発売された、昭和堂の「農業と経済」という雑誌に非常にいい論文が掲載されていたので、引用します。[出典:昭和堂 農業と経済 10月号 西沢栄一郎(法政大学経済学部教授)]。

P16-17
EUの共通農業政策(CAP)における環境支払いは、1985年の「農業構造の効率改善に関する規則(797/85)」にはじまる。(中略)その後、環境に関連するものとして生産の転換および粗放化、休耕などの項目が追加され(中略)
こうした政策が導入された背景としては、1980年代に顕在化した農産物の過剰と環境悪化があった。CAPの価格支持、輸入課徴金、輸出補助金などの保護政策に支えられ、EU各国では農業経営の大規模化と集約化が進んだ。それは生産量の増加と食料自給率の上昇をもたらしたが、農産物の過剰にも悩むことになった。(中略)集約度を減らすことや、休耕して農業生産をしないことは、この2つの問題に資するものであった。

この説明が全てです。
EU諸国では保護政策と農業技術の進歩により、長期に渡って農産物の過剰生産が大きな問題になっています。つまり、何とかして生産量を減らしたいわけです。無農薬農業はその一環です。文中では「粗放化」と表現されていますが、要するに効率の悪い栽培方式に切り替えることで、農業生産量を積極的に減らそうとしていると言えます。食料自給率がエネルギーベースで40%にも満たない日本ではとても無理な話です。


4.おわりに

農薬は必要悪です。使わなくても農業ができるのならば、使うべきではありません。しかし、現状では日本で無農薬農業が主流になることは極めて難しいと言わざるを得ません。
もっとも、一部の農業者の不勉強や怠慢、消費者の無理な要求により、農薬が過剰に用いられていることは事実です。農業技術や農薬自体の進歩、農業者や消費者の意識改革により、農薬の使用が減っていくことを期待しましょう。いきなり無農薬、というのは無理な話です。実際のところ、農薬の毒性はどんどん低下していますし、出荷量もどんどん減少しています。状況はそれほど暗くないと言えましょう。
参考:農薬の生産・出荷量の推移(平成元〜24農薬年度)(農水省)
参考:教えて! 農薬Q&A 農薬は安全?(農薬工業会)