バッタもん日記

人生は短い。働いている暇はない。知識と駄洒落と下ネタこそ我が人生。

STAP細胞騒動に関する愚見

1.はじめに

STAP細胞を巡る騒動は未だに続いています。今回は、この一連の騒動に関する私見を述べます。もっとも、私は分子生物学に関しては専門外ですので、あくまで科学の世界のルールという観点から考察します。博士課程ドロップアウト者で、論文を日本語・英語で計2報しか掲載できなかった私にその資格があるかどうかはわかりませんが。
ちなみに、論文のテーマはどちらも牛のうんこです(本当)。学会発表は口頭・ポスターで合わせて4回行いましたが、やはりテーマは全て牛のうんこでした(本当)。
参考(宣伝):うんこと食料自給率 −物質循環−

2.小保方氏本人による検証実験の是非

科学の定義は色々あるかと思いますが、「再現性」「普遍性」が重要な候補として考えられると思います。つまり、「いつでも・どこでも・誰でも」が鉄則だということです。特定の個人の手でしか起こせない、他人の手で再現できない現象は科学ではありません。だからこそ、科学論文では「材料及び方法」や「Materials and Methods」という項目において実験の方法を詳細に説明することが必須なのです。*1
従い、検証実験に小保方氏本人が参加する意味は全くありません。本人が参加したのでは検証になりません。*2小保方氏がすべきことは、実験担当者が論文の内容を再現できるように、STAP細胞の作製方法を詳細に説明することだけです。

そもそも、STAP細胞に関するNature誌の論文が全て撤回されている以上、STAP細胞に関する研究は既にこの世に存在しません。存在しない研究を検証して何の意味があるのでしょうか。
Retraction: Stimulus-triggered fate conversion of somatic cells into pluripotency(Nature)
Retraction: Bidirectional developmental potential in reprogrammed cells with acquired pluripotency(Nature)

次善の策としては、「小保方氏が関与せずにSTAP細胞の存在が確認される」→「STAP細胞の作製法が確立される」→「小保方氏が再度論文を投稿する」という流れでしょう。小保方氏が検証実験に参加してしまっている以上、もはや絵空事ですが。ましてや、科学の世界でお尋ね者になってしまった小保方氏の論文を掲載する学術誌はもはや世界のどこにも存在しないと思います。

この実験が成功しても論文捏造という事実は消えません。また、この実験の成果を論文として発表することもできません。失敗しても、「STAP細胞の存在が完全に否定されたわけではない」と強弁して悪魔の証明を持ち出せば終わりです。最初から何の意味もない実験なのです。

3.科学の世界のお尋ね者

(1)もはや学術誌には相手にされない
科学の世界では、学術誌はimpact factorという数値により、影響力を評価されます。小保方氏がSTAP細胞に関する論文を投稿した学術誌のimpact factorは以下の通りです。
Cell:33.1Science:31.5Nature:42.4
私が所属していた分野では、世界最高レベルの学術誌でもimpact factorは3ぐらいでしたから、どこの異次元の世界の話かと思ってしまいます。
小保方氏はCell誌とScience誌の査読において研究の重大な不備を指摘され、またScience誌には画像の捏造も指摘されました。しかし、査読者の意見を無視して研究結果を改めませんでした。その後Nature誌に論文を2報投稿し、掲載されてしまいました。そして、2報とも撤回されました。つまり、小保方氏は意図はどうあれ、結果として科学の世界の最高峰である3つの学術誌をコケにしたわけです。もはや国際的なブラックリストに名を連ねてしまったと考えるべきでしょう。

(2)不正により得た地位
現在の日本では、論文が学術誌に掲載されずに苦しんでいる科学者、博士論文が書けずに博士号が取得できない科学者、職に恵まれない科学者は数多くいます。そしてそれは本人の能力不足による自業自得というわけでは必ずしもありません。一方の小保方氏は、捏造論文をNatureという超一流誌に掲載し、捏造博士論文で博士号を取得し、理化学研究所というステータスの高い研究機関で職を得ました。これでは恨みを買って当然です。

(3)日本分子生物学会の怒り
また、この騒動に関して日本分子生物学会は強い怒りを表明しています。懸念や憂慮ではなく、明確に怒りです。
特定非営利活動法人 日本分子生物学会 研究倫理委員会
はっきり言ってしまえば、小保方氏は日本中の分子生物学者を敵に回してしまったのです。
この文章なんて、行間から怒りが迸り出ているとしか言いようがありません。

4.小保方氏の今後

今回の騒動において、どこまで小保方氏に責任があるのかはわかりません。しかし、小保方氏が撤回された論文2報の筆頭著者である以上、科学の世界において不正の報いを受けることは避けられません。
私は小保方氏が今後、科学者として生きていくことは不可能だと思います。その理由を述べます。

小保方氏の母校であり、同氏に博士号を授与した早稲田大学は、同氏の博士号を剥奪することを決定しました。ただし、1年以内に適切な博士論文を提出すれば博士号を認めるという猶予付きですが。
小保方氏が期限内に論文を提出できるかどうか、それは私にはわかりません。ただし、再度不正が発覚したら早稲田大学の研究・教育機関としての権威は完全に失墜しますので、仮に論文を提出できたとしても、審査は恐ろしく厳しいものになると予想できます。提出されるであろう論文がその審査を突破できる確率は非常に低いのではないかと思います。
また上に述べたように、小保方氏は日本中の分子生物学者を敵に回してしまいました。そのため、博士論文は日本中の分子生物学者の目により過酷な検証を受けるはずです。それこそ学術誌の査読審査の比ではないぐらいに。よって、小保方氏が博士号を保持し続けられる可能性は低いと思います。

現在、博士号を持たない人間が科学の世界で科学者として職を得ることはほぼ不可能です。しかも、「まだ博士号を取得していない」のではなく「博士号を剥奪された」のですから、採用する研究機関は絶無でしょう。ましてや、Natureに捏造論文を掲載して撤回させられたような札付きの科学者を。博士号の再取得も無理でしょうし、まさかディプロマ・ミルを利用するわけにもいかないでしょうし。

残念ながら、小保方氏に科学者としての将来はないと思います。

5.おわりに

このような騒動が二度と起こらないように科学の世界の自浄作用を期待したいところですが、個人的には難しいと思います。そして、それは全て科学者自身の責任であるとは言い切れません。

科学の世界では、予算や人員が減らされる一方で、業績としての論文執筆を求める圧力はどんどん高まっています。科学者は雑用に追われながらも、外部から予算を獲得し、論文を執筆する日々を強いられています。さらに、理化学研究所に限らず、3年とか5年とかの雇用期限付きの職*3に就いている科学者も多いのが現状です。1本の論文に生活と人生がかかっているわけです。じっくりと丁寧に研究することはもはや不可能になりつつあります。そのような状況では不正が起こることは避けられません。職や生活が安泰なのに地位や名誉、金のために不正を行う悪徳科学者が少なからずいることは否定しませんが。
綱紀粛正、違反者に対する厳正な処罰は当然ですが、科学者に金と時間を与えることももう少し考えて欲しいと思います。科学の世界に限らず、倫理と罰だけでは不正はなくなりません。「貧すれば鈍する」「衣食足りて礼節を知る」と昔からよく言う通りです。みんな貧乏が悪いんや。

しかし、今の文部科学大臣がアレではねぇ。今回の騒動がややこしくなった背景には、あの大臣が早稲田大学の卒業生だということもありそうです。理化学研究所が文部科学省の独立行政法人である以上、文部科学大臣の意向は無視できないでしょうから。

現時点の理研の検証過程では残念ながらSTAP細胞の存在は証明されていません。ただ、小保方さん本人は200回以上作成に成功したと言っているわけですから、私はやっぱりチャンスは提供するべきだと思いますよ。

下村博文 文部科学大臣インタビュー【後編】 教育は、未来への「有効な先行投資」だ 少子高齢化時代を切り拓く、教育のイノベーション

何と日付は先月末です。この期に及んでこの有様。文部科学大臣が日本の科学を滅ぼそうとしています。嗚呼嘆かわしや。

*1:天文学や地球科学、進化学や生態学のように原理的に再現が不可能な分野も多々ありますが

*2:理化学研究所では本人ですらSTAP細胞を再現できないことを明らかにし、小保方氏に引導を渡すという冷徹な計画もあるようですが。そんな冷徹さがあるならば、捏造が発覚した直後に、騒動が大きくなってこじれる前に小保方氏に厳正な処分を下して欲しかったところです。

*3:研究職を「アカポス」と呼びます。「アカデミックポスト」の略称です。また、雇用期限のない職を「テニュア」とか「パーマネント」と呼びます。