バッタもん日記

人生は短い。働いている暇はない。知識と駄洒落と下ネタこそ我が人生。

農家は自家用の農産物には農薬を使わないというのはどこまで本当か

「農家は出荷用の農産物には農薬を使うが、自家用の農産物には農薬を使わない。農薬の危険性を知っているからだ」という主張をよく見掛けます。誰が言い始めたことなのかはわかりません。しかし、現代の日本で根強く定着してしまっている言説です。twitter上でも時々見掛けます。この件について、私個人が農家や農業技術者、研究者から聞いた話を元に、私見を簡単に述べます。

農家が自家消費する農産物は、以下の2種類が考えられます。

(1)出荷用に栽培していたが、出荷できなかった農産物
(2)最初から自家用に少量栽培している農産物

地域や品目や栽培方式により割合は変動しますが、売り物にならない農産物は大量に出ますので、自家消費は(1)が多いようです。労力やコストを考えると、わざわざ売り物にならない農産物を栽培することはなかなか難しいようです。
(1)であれば、当然ながら農薬が使用されています。問題になるのは(2)の場合でしょう。この場合を考えると、農家が農薬を使わないことがないわけではありません。

栽培方法や品目にもよりますが、農薬を使わなければ、病気や害虫の影響により色や形が悪くなって売り物にならない農産物が増えます。自家用に栽培している農産物は最初から売るつもりがないので、農薬を使う理由がありません。農薬はタダではありませんし、散布する労力も無駄になります。自分と家族が食べるのであれば、見てくれが悪くても気になりません。農薬を使わなかったとしても何もおかしくはありません。
また、作物の種類が変わると病気や害虫の種類が変わりますので、有効な農薬の種類も変わります。ごく少量の自家用の作物のために、わざわざ金を払って専用の農薬を買ったりはしません。

そもそも、農家にとって農薬の暴露量は、農産物経由で摂取する量よりも、撒布時に直接吸入する量の方がはるかに多くなります。もし農家が「農薬の危険性を知っているから自家用の農産物には農薬を使わない」のであれば、最初から自家用に限らず全ての農産物に対して農薬を使用しないはずです。

以上をまとめると、「農家が自家用の農産物に農薬を使わないことがないわけではない。しかしそれは、農薬を使うメリットがないからである。農薬の危険性を知っているからではない。ごく普通に農薬を使って育てた農産物を食べている」という辺りになりましょうか。