バッタもん日記

人生は短い。働いている暇はない。知識と駄洒落と下ネタこそ我が人生。

漫画「バンビ〜ノ!」のミスに感じた「料理の定義」の難しさ(続)

先週に引き続いて漫画「バンビ〜ノ!」がミスを出しましたので、再度これにかこつけて食の歴史に関する駄文を書きます。

前回はジャガイモでしたが、今回はトウガラシでした。トウガラシもジャガイモと同じく南米を起源とする作物で、ヨーロッパに導入されたのは大航海時代以降ですので、「大航海時代以前のイタリア料理」としては不適切です。作者や編集部の対応が楽しみです。「昔の料理を現代的に再現しただけで、昔の食材しか使わないとは言っていないからミスではない」と開き直りそうな気もしますが。

新たな作物の導入により料理は変化します。現在のように世界中の食材を手に入れることが可能な時代に生きている我々には、様々な食材が欠けている昔の料理を想像することは非常に難しいと言わざるを得ません。前回書いたようにハクサイやタマネギが日本に普及したのは大正時代以降とかなり最近ですが、既に我々にはハクサイのない鍋料理など考えることはできません。タマネギのない肉じゃがや牛丼も同様です。
そして、昔の料理が現在の人間の口に合うか、現在の料理より優れているか、ということは保証の限りではありません。


さて、ここで料理は時代とともに大きく変遷することを国・地域別に系統的に述べられればそれに越したことはないのですが、それをするにはブログという媒体は不適です。本が数冊書けるほどの内容です。何より私にそれだけの能力がありません。ただの研究者崩れの会社員ですので。しかも学生時代の専門とは全く違う分野ですので、所詮は素人の趣味です。
その代わりに、現在用いられている主な作物の起源地を挙げることで、「料理は時代とともに変遷する」こと、そのため「料理の定義」が実質上不可能であること、「和食も何だかんだで昔から国際色が豊かである」ことをお伝えできれば幸いです。

作物の起源地は大きく8つに分かれます。ここでは、食生活への影響という観点から、穀物、イモ類、野菜に限定しました。

1.中国北部
ダイズ、アズキ、ゴボウ、ワサビ、ハクサイ、ネギ、キビ、ヒエ、アワ
2.中国南部・東南アジア
イネ、ソバ、ナス、リョクトウ、キュウリ、サトイモ、ナガイモ、ヤムイモ、タロイモ
3.中央アジア
ソラマメ、レンズマメ、ヒヨコマメ、タマネギ、ニンニク、ホウレンソウ、ダイコン
4.中近東
コムギ、オオムギ、ライムギ、エンバク、ニンジン、レタス
5.地中海沿岸
エンドウマメ、ナタネ(アブラナ)、キャベツ、カブ、アスパラガス、パセリ、セロリ、ブロッコリー、カリフラワー
6.西アフリカ・アビシニア
モロコシ(ソルガム)、トウジンビエ、シコクビエ、オクラ、ヒョウタン、ゴマ
7.中米
トウモロコシ、サツマイモ、インゲンマメ、カボチャ
8.南米
ジャガイモ、トマト、カボチャ、ラッカセイ、キャッサバ、トウガラシ類(ピーマン、パプリカを含む)

いかがでしょうか。和食の食材が多国籍であることに改めて驚きます。「和食原理主義者」の方々にこれを読んだ上で和食の定義について聞いてみたいところです。彼らの考える「和食」も大昔の日本人から見れば外国かぶれの料理かも知れません。
「和食原理主義者」がどのような人々かわからない方は、「マクロビオティック」「食養」「身土不二」「玄米正食」などの用語で検索してみることをお勧めします。

参考文献
前回とは傾向を変えて、専門書を含みます。
新訂 食用作物 国分牧衛 養賢堂
作物学概論 大門弘幸 朝倉書店
作物学総論 堀江武他 朝倉書店
作物学(Ⅰ)−食用作物編− 秋田重誠他 文永堂
品種改良の世界史 作物編 鵜飼保雄・大澤良 悠書館


余談ですが、私の考える究極の和食とは、ドングリ料理です。日本にはドングリを付けるブナ科の樹木が多数自生しており、農業を始める以前の日本人はドングリを主食としていたことが確認されています。種類によっては生でも食べられます。美味い物ではありませんが。以下の書籍が参考になります。
どんぐりハンドブック いわさゆうこ・八田洋章 文一総合出版
どんぐりの図鑑 伊藤ふくお トンボ出版

また、「米」=「和食」=「善」、「小麦」=「欧米食」=「悪」という「和食原理主義者」の短絡的な主張を批判的に検証するために資料を収集中です。しかしこの手の専門書は高い上にすぐに絶版になったりするので、いささか苦労します。