バッタもん日記

人生は短い。働いている暇はない。知識と駄洒落と下ネタこそ我が人生。

食料自給率 その2

(4)食料自給率は上げた方がいいのか低くてもいいのか
これは非常に難しい問題です。そもそも日本の食料自給率が下がったのは、食料を国内で生産するより外国から買った方が安いとか、貿易摩擦解消のために外国から食料を輸入する必要があるなど、経済・政治的な理由があったからです。ある意味必然だったと言えます。
今からでも膨大な補助金をつぎ込めば自給率を少し上げることは可能でしょうが、納税者である国民が納得しないでしょうし、費用対効果を考えれば国策として非常に問題があります。

私は経済学には全くの無知なので、日本は工業に向いていて農業には向いていないのだから、工業に専念して農業は外国に任せればいい、という国際分業論に反論するのは無理です。

そもそも、農業におけるエネルギー源である石油を全く自給できていないのだから食料自給率にこだわっても仕方がないという意見もあり、これまた反論が難しいところです。

ちなみに、東大農学部の鈴木宣弘教授によると、アメリカが採算が合いにくいトウモロコシによるバイオエタノール生産を重視する理由は、過剰在庫を処理してトウモロコシの国際市場価格を上げることによる農業振興と、石油消費量を減らしてエネルギー自給率を上げ、中東諸国への依存度を下げるという狙いがあるようです(日本経済新聞出版社「食料を読む」)。

ただ言えることは、食料自給率が低いということはそれだけ外国に食料を握られているということであり、外国の都合に振り回されるということです。
「日本が世界を敵に回すようなことは二度と起こらないから食料輸入は安泰だ、食料自給率を上げる必要はない」という意見も強いのですが、世界が日本に食料を売ってくれるのは日本が少なくとも今は金持ちだからです。日本の経済状況は決して先が明るいとは言えません。これからも外国から食料を買い続けることができると断言できるのでしょうか。

個人的には、世界で食料が戦略資源として位置付けられている以上、日本は血税を投入してでも最低限度の食料自給率を維持すべきだと考えています。最低限度とはどれぐらいの水準だと言われたら答えに困るのがつらいところですが。

昨年よく売れた「日本は世界5位の農業大国(講談社プラスアルファ新書)」の中で、著者の浅川芳裕氏は、欧米諸国は食料自給率を重視していない、と述べていますが、これには問題があります。EU内部では国境を越えた食料貿易が盛んであり、国同士の農業の分業体制がある程度確立されているので、国内の自給率をあまり気にする必要がありません。また、アメリカは国内消費量をはるかに上回る膨大な食料生産力を有しているので、自給率など最初から気にしていません(100%を超えるのが当たり前だから)。日本とはあまりに状況が違うので、比較すら無意味です。

欧米では、農業は補助金や所得補償など様々な形で保護されています。食料輸出が国家の経済を支えているので当然です。日本の農業保護はむしろ弱いとすら言えます。
日本の国策として農業をどうするのか、我々国民が考えないことにはどうにもなりません。

日本農業は輸出主体に切り替えることで発展できると唱える人は多いのですが(前述の浅川氏や東大農学部の川島博之准教授など)、現在日本は食料の輸出は果物などを少々行っているだけです。つまり、世界市場で日本産の農産物が付け入る隙はほとんどありません。日本の農産物は品質では世界一ですが、国際水準の数倍という価格が致命傷となっています。

最後に、私は浅川氏の主張を信用しません。データの解釈があまりに我田引水だからです。
○農業生産額や金額ベースの自給率が下がり続けていることを無視している。
EU諸国に比べて日本の輸出額があまりに少ないことを、発展の余地があると開き直っている。
○輸入額は日本よりEU諸国の方が大きいので日本は食糧輸入大国ではないと強弁しているが、食料貿易の収支を見ると日本は世界最大の純輸入国である。

これでよく「日本は農業大国」などと言えたものです。
浅川氏は、「農水省が予算を獲得するために詭弁やデータの操作により日本の農業は弱いと見せ掛けている」と主張していますが、そういう自分は日本の農業が強いと見せ掛けるために同じことをしています。

食料自給率の話はこれで終わります。次は農業と地球温暖化の話をします。