地球温暖化が事実であるとして意見を述べます。
実は農学者にとって、地球温暖化問題はあまり歓迎できるテーマではありません。
農業が大きな原因の一つとして批判されているからです。
昨年秋に北海道大学で作物学会が開催されました。その中で地球温暖化問題に関するシンポジウムが開催されたのですが、その際の質疑応答で、知り合いの研究者が「地球温暖化の原因が二酸化炭素だと科学的に証明されているのか」と質問していました。記憶が定かではありませんが、回答は「実験的には確かめられていないが、世界的な気温の上昇と二酸化炭素濃度の上昇に相関が認められている」というものだったような気がします。
現代の農業は機械化が進んで石油消費量が増加し、二酸化炭素排出量が増加しています。
しかしもっと厄介な問題が、重量当たりで二酸化炭素の20倍の温室効果を持つとも言われているメタンです。農業におけるメタンの発生源は、ほとんどが水田稲作と畜産です。
メタンは、有機物(炭素を含む物質)が還元状態(酸素がない)でメタン細菌に分解されることで発生します。
水田は水を張るので土壌が還元状態になり、メタンが発生します。ということは、水を張る期間を短縮すればメタン発生量が減ります。そのため、水稲の生育に悪影響を及ぼさない範囲で水を張る期間をできるだけ短くする研究が進められています。
ところが、水を張る期間を短くするとトンボやカエルのような水生生物が生きていけなくなるため、生物多様性に悪影響を及ぼします。
これはどうしようもないジレンマで、地球温暖化と生物多様性のどちらを重視するかという問題になってしまいます。環境問題は大抵の場合経済性と衝突し、金と環境のどちらを採るかという問題になることが多いのですが、ここでは環境問題同士が衝突してしまっています。
知り合いの生物多様性の研究者(里山の専門家)にこの問題について聞いてみると、生物多様性が高い地域では生物多様性を重視し、都市近郊などで生物多様性が低い地域では温暖化問題を重視するという妥協策しかないだろう、とのことでした
水田稲作は、アジア人が造り上げた非常に優れた農業システムです。
○水に含まれる栄養分のおかげで肥料があまり要らない
○連作障害が起こりにくい
○水を抜いたり張ったりすることで雑草や病害虫を制御できる
○収量がコムギより多い
○人工的ながらも湿地を維持できるので、生物多様性が高い
など、多くの利点があります。
水田の唯一の欠点とも言えるのがこのメタンの問題です。
特に最近は水田土壌に積極的に有機物(稲わらや堆肥)を投入するようになっているので、さらに発生量が増える懸念もあります。だからといって有機物の投入をやめるのは物質循環の点からも問題があり、こちらもジレンマに陥っています。