バッタもん日記

人生は短い。働いている暇はない。知識と駄洒落と下ネタこそ我が人生。

小沢一郎の低俗な農業擁護論

1.はじめに

私は純然たるノンポリ(死語)人間です。自民党民主党共産党社民党も支持しません。
つい先日、政治界のトラブルメーカー、小沢一郎が農業擁護、食料自給率向上を訴えていました。

農業は食糧安全保障や自給率、地域活性化の観点から考えるべき(BLOGOS)

端的に言ってしまえば、非常にありきたりで浅薄な意見です。自民党自由党民主党で政権を担った政治家の見解としてはあまりに拙劣です。現実味が全くありません。言いたいことはわかりますが、ここまで論理が杜撰では呆れる他ありません。この記事を読んでいささか頭に来ましたので、批判記事を書く次第です。

2.農業擁護論の背景

小沢は自民党自由党時代は保守のタカ派の政治家だったはずです。いつの間にやらリベラル左派のような顔をしています。また、自民党民主党時代には原発を推進する政策を導入しましたが、いつの間にやら脱原発派のヒーローに収まっています。私にはこの政治家は筋金入りのポピュリストにしか見えません。つまり、一貫性や信念などなく、時代ごとに有権者に好評を博しそうな政策を主張するだけなのではないかと。そして「ポピュリスト」という単語を念頭に置くと、この記事の背景がよくわかります。

現在の日本は食料輸入大国です。ここで、食料の輸入先の国として大きいのが、アメリカと中国です。つまり、食料自給率向上は対アメリカ、対中国の依存を減らすということです。反米、反中国というイデオロギーに適います。
また、食料自給率の向上は極論すれば国産食料の支持、外国産食料の排除ですから、国粋主義、排外主義にも適います。
さらに、日本人には農業、農村に対するノスタルジー、ファンタジーが根強く存在しています。ジブリ映画の「となりのトトロ」が大人気を博する理由でもあります。

早い話が、農業擁護論は広く支持を得やすいので、政治家の道具としては便利な言説だと言えましょう。そのために、農業に関心も見識もない政治家が、何の根拠もない情緒的な農業擁護論をぶち上げるわけです。

3.各論批判

元記事を引用しながら批判を行います。

ただ単に競争力のある一部の農産物が株式会社の運営の下で生き残るというだけのことです。

農業に企業が参入し、農地を集約して効率化を進めていけば、今までの農業従事者のほとんどは切り捨てられていくことになります。そして、企業は利益を追求する集団ですから、利益が出ないとなれば、さっさと撤退してしまいます。

私は、農業に自由競争の原理を導入して勝ち組だけを育てるというやり方は全く日本のためにならないし、資本主義の歴史にも民主主義の原理にも反すると思います。

現在の日本では、農業に経済を持ち込むことを嫌う人が少なからずいます。「農家は金儲けに走るな」などと言う人もいます。私はこれは根本的に間違っていると思います。農業は農家にとって商売であり、地域にとって産業です。農業が、農家が金儲けに走るのは当然のことです。それを否定する資格は誰にもありません。さらに言うと、農家はどんどん金儲けに走るべきです。上手くやれば農業は儲かるということが世間に知れ渡れば、新規参入する農家や経営規模を拡大する農家が増えて競争が起こり、農業が活性化するわけですから。
「農家に経済や競争を持ち込むな」という主張は、過酷な競争から農家を守っているように見せ掛けて、農業を衰退させるだけです。

初期資本主義の段階で生産性の高い工業製品に力を入れ農業を切り捨てたイギリスは、その反省から農業政策にも予算をつぎ込み、現在の食糧自給率は70%程度までになりました。ドイツは100%、フランスは120〜30%、アメリカやオーストラリアはもっと高い水準です。

政治も経済も国土も何もかもが違う日本とEU諸国を、ただ先進国であるという理由だけで同列に語るのはあまりに粗雑です。
以下の表をご覧下さい。EU諸国と比べて、日本の農業が置かれた状況はあまりに厳しく、EU諸国並みの食料自給率など望むべくもないことがよくわかると思います。これだけ人口が過密で、これだけ農地が少ない国で、どうすれば食料自給率が上がるというのでしょうか。

日本の食糧自給率は今や40%を切っていますが、私は本来100%にすべきだと思っています。日本には耕地面積も十分あります(後略)

断言します。現在の日本で「食料自給率100%」という水準は、努力目標ですらありません。無知に基づく絵空事です。これどれだけ非現実的な数値であるかを、宮城大学食産業学部教授の三石誠司氏の書籍、「空を飛ぶ豚と海を渡るトウモロコシ 穀物が築いた日米の絆(日経BP)」から引用します。

2009年の国内耕地面積は461万haとなっています。これに対し、日本の年間輸入穀物数量を各々の品目の平均単収で逆算し、必要な耕地面積を計算すると約1200万ヘクタールに相当します。(中略)「国民が消費する農産物を生産するには、国内農地面積の約3.5倍(約1700万ヘクタール)が必要」ということです。私たちは、ここでも見たくない「当たり前の」現実と直面しなければなりません。(P179-180)

私たちは、今のままの生活を続けている限り、基本的に1億人以上の国民の胃袋を満たすためには国内の農地だけでは不十分であるという現実をもう一度しっかりと認識すべきだと思います。(P202)

主要穀物を完全に自給していくことは十分可能です。

現在の日本の主な穀物自給率を以下の図に示します。

意外なことに、最も消費量が多い食品は、米ではなくトウモロコシです。大半は家畜の飼料ですが。現在の日本は最も消費量の多い品目の自給率が0%なのです。0%を100%にしろとは何の冗談でしょうか。絵空事にも程があります。

コメ作りはある程度制限して、その分を大豆や麦、あるいは畜産、酪農などに向けていけばいいのです。

それを世間では「減反政策」と呼びます。既に数十年に渡って実施されています。米どころである岩手県を選挙区とする小沢が減反政策を知らないはずがありません。
水田から大豆や麦類、飼料作物の畑に転作することが全国的に進められています。それでも各品目の自給率の向上は遅々たるものです。

大豆や麦、トウモロコシなど飼料穀物の反収(10 アール当たりの収穫量)は現在、欧米の半分程度です。耕作地に手をかけて、単位面積当たりの収穫量を多くするのが日本農業の特色ですから、これらの作物も品種改良を進め、精一杯手をかけて育てていけば、必ず欧米並みの収穫量にすることができるはずです。

上記のように水田を他の作物の畑に切り替えると、上手く行かないことがよくあります。その理由として大きなものが、水の問題です。日本は雨とそれに起因する地下水が多すぎるのです。大豆や麦類、トウモロコシは日本より乾燥した地域を起源とする作物なので、水分過剰により収穫量や品質が落ちてしまうのです。「水田 転作 湿害」で検索して下さい。これは技術で克服するのは非常に困難です。農業は自然環境に強い影響を受けますので。

4.おわりに

現在の日本の農業・食料を取り巻く状況は非常に厳しいと言わざるを得ません。しかし、それでも日本人は現実を見据えながら行動せねばなりません。農業・食料に関しては様々な主張が飛び交っています。TPPやFTAへの参加も関係して、今後はますます。状況が複雑になると思われます。情報の取捨選択の際には、まず何より統計数値と技術を念頭に置いて下さい。食料自給率の改善は言葉にするのは容易ですが、実行に移すのはあまりに困難です。一見よさそうな政治家のいい加減な言葉には用心しましょう。