バッタもん日記

人生は短い。働いている暇はない。知識と駄洒落と下ネタこそ我が人生。

腐らない野菜の恐怖

明日から園芸学会(野菜・果物・花の学会)に参加します。私は研究者ではないので発表を見るだけです。質問は必ずしますが。そのため、強引ですが野菜について少々書きます。

農薬や肥料を全く使わない「自然栽培」「自然農法」なるものが根強い支持を受けています。実践者や支持者のサイトを見ると、必ずと言っていいほど以下のような記述があります。

「自然農法の野菜は腐らず、枯れる」「慣行農法や有機農法の野菜は腐る」

これが事実だとしたら、恐ろしいことです。
腐らない野菜など食べたらとんでもないことになります。

腐るとは、菌類や細菌類などの微生物の作用を受けて、有機物が分解されることを指します。
微生物の化学的な分解力は大変強力です。例えば、植物の細胞壁の主成分であるセルロースやヘミセルロース、木質部分の主成分であるリグニンは、非常に化学的に安定した物質で、動物にはまず分解できません。キノコ類にはこれらの物質を分解する能力があります。
つまり、「腐らない野菜」とは、木を分解できるキノコですら分解できない謎の物体だということになります。一体何が含まれているのでしょうか。そんな物は人間にはまず消化できません。消化不良を起こして健康を害します。再悪の場合は消化管が詰まって死んでしまいます。

そもそも「自然農法」の根本原理は、「自然界では植物の遺体(落ち葉や枯れ枝など)が腐って肥料になる。だから肥料はいらない」というものです。ならば野菜も腐らなければ矛盾なのでは。自然から生まれた物は、腐って自然に帰るのが鉄則です。「腐らない野菜」など、不自然かつ異常極まりない物です。

「自然農法の野菜は生命力が強いので腐らない」という一見もっともらしい説明がなされます。ここで、ちょっと考え方を変えてみましょう。
野菜という植物は、野生植物を人間が品種改良することで生み出した、特殊な(異常な)植物です。野生植物が病気や害虫により全滅することはありません(急速に侵入・定着した病気や害虫でもない限り)。ところが、野菜は簡単に全滅します。つまり、野菜は「生命力」に関しては、野生植物とは比較にならないほど劣ります。例え「自然農法」の野菜であっても、野菜という「人工」の植物である以上は、野生植物より強い「生命力」を持つことはあり得ません。
その野生植物ですら微生物には分解されてしまうのに、「自然農法」の野菜は微生物による分解を受けない、というのは何とも珍妙です。繰り返しますが、自然から生まれた物は、腐って自然に帰るのが鉄則です。

まあ真面目に考えれば、「自然農法の野菜は腐らない」というのは、杜撰かつ恣意的な実験による意図的な誤認でしょう。つまり、最初から結論ありきで結果を操作している、実験と呼ぶに値しないインチキなパフォーマンスです。全く無意味、デタラメだと断言できます。

さらに、「腐らない野菜」を称賛する連中は、「コンビニの弁当やファストフードショップのハンバーガーはいつまでも腐らないから危険だ」と主張することもあります。野菜が腐らないのはいいことなのに、コンビニ弁当やハンバーガーが腐らないのは悪いことだというのは、どうにもこうにも。