バッタもん日記

人生は短い。働いている暇はない。知識と駄洒落と下ネタこそ我が人生。

TPPと農業について少し

農業・農学の世界では、昨年あたりからTPPの話で持ちきりです。意外に思われるかもしれませんが、農学研究者の間では、TPP賛成派も少なくありません。賛成派・反対派の意見を少々乱暴にまとめてみます。

賛成派
○「強い農業」を目指すべき
○日本農業には外圧によるショック療法が必要
○日本の農家は補助金漬けで甘やかされている
○零細農家・兼業農家の離農を進めて農家を少数精鋭化する
○離農した農家の土地を集約して規模拡大・企業の参入を促して経営を改善する(※)
○生産・加工・流通・小売りまで一貫経営を行う(6次産業化
○日本は今後人口減少が進むので、国内市場が縮小する
○日本の農産物は高品質なので輸入品に勝てる
○日本の農産物は高品質なので輸出できる

反対派
○日本の農業は土地の制約(狭い・山が多い)によりどうしても弱くなる
○ショック療法どころかショック死してしまう
EUでは農家はもっと保護されている(収入の大半が補助金
○農業を追われた農家の新たな職がない
○規模拡大による経営の効率化には限度がある
○多少規模拡大したところでアメリカやオーストラリアには勝てない
○企業は採算が合わなくなったら簡単に撤退する
○企業が撤退したら残るのは荒廃した農地と農村社会のみ
○日本の農産物は高品質だがそれ以上に価格も高い
○国内でも輸出先でも価格競争に敗れる恐れがある
○輸出先(主に中国)の経済状況が悪化したらどうするのか

どちらの主張もかなりの割合で正論を含んでいます。専門家だから当然ですが。
速い話が、農学の世界でも保守(反対派)と革新(賛成派)の対立があるわけです。
極めて個人的な意見ですが、賛成派は日本全体の「農業」を守ろうとしているのに対し、反対派は個々の「農家」を守ろうとしているような気がします。経済学には無知なので言葉の使い方を間違えているかもしれませんが、「マクロ」と「ミクロ」の差とでも言えばいいのでしょうか。もちろん、どちらがいいか悪いか、という判断は極めて難しいと思います。
反対している研究者でも、「TPPへの参加を阻止できれば日本農業は安泰だ」などと考えている人はいませんし。

この問題がややこしくなる理由として、アメリカと農産物の自由貿易に踏み切った国がどうなるかという実例が乏しいことが挙げられます。農業は地形・気候・政治・経済などの条件により状況が全く変わるので、参考とはなりにくいからです。

韓国はアメリカとFTAを結んだばかりなので、まだ参考とはなりません。韓国農業は日本農業よりはるかに脆弱なので、政府が膨大な補助金を投入する予定です。

メキシコはアメリカとNAFTAを結んで今年で18年ですが、メキシコ農業は次のように大きく変化しました。
○農業生産額が増加した
○農産物の対米輸出・輸入ともに大幅に増加した
○中小農家の離農が進み大規模農家がさらに経営規模を拡大した
これでは、NAFTAがメキシコ農業にもたらした物は破壊か構造改革か、何とも言えません。


TPPの問題は難しいとしか言えません。また、農業はGDPの1〜2%を占めるに過ぎない弱小産業なので、経済的影響力はありません。農家の数が減ってかつてのように票田とはならないので、政治的影響力もありません。どうなるか国の判断を待つより仕方がありません。



経営規模を拡大するには、他の農家が耕作しなくなった農地を借りたり買ったりする必要があります。ところが、このような余った土地は不規則に(モザイク状に)発生するので、経営農地が分散してしまい、作業効率が悪くなるため、規模拡大のメリットがなくなります。そのため、規模拡大と農地の集約は同時に進めなければ意味がありません。
また、緩和されつつあるとは言え、現在の法律では、企業の農業への参入は法律により制限を受けます。
農地の流動化(売買・貸借)と企業の参入を進める上でネックとなっているのは、農地法です。この法律は平成21年に大幅に改正されていますが、今後も様々な形で注目されると思います。