バッタもん日記

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疑似科学が教育現場に入り込む理由

EMが全国各地で教育現場に導入され、定着していることが大いに懸念されています。これに関連して、タイトルに記した「疑似科学が教育現場に入り込む理由」について実感したことを述べます。

先日、とある学会の大会に参加しました。よくある名前ばかりのインチキ学会ではなく、日本学術会議に登録し、数千人の会員を有する歴史と権威を持つ学会です。英語と日本語2種類の学会誌を発行しており、インパクトファクターも取得しています。
早い話がまともな学会です。

その大会で、疑似科学に傾倒していると思われる研究者の講演がありました。
事前に大会の公式サイトではタイトルしかわからなかったのですが、タイトルだけでも私の脳内の「トンデモセンサー」が反応したので、是非とも聞きに行こうと思っていました。
実際に聞いてみると、予想より酷い内容でした。仮にも学会の大会という場でこのような講演が行われたことは極めて残念です。
私ならびにその研究者の身元が判明しては困るので詳しいことは言いませんが、最初から最後まで疑似科学が満載でした。あまりに酷かったので、質疑応答の際にいくつか質問(むしろ詰問)をしたのですが、危うく「貴方は科学者失格だ」と言いそうになりました。科学者ではない(なれなかった)私にそんなことを言う資格があるかどうか自信がありませんが。

以下、気になった点を列挙します。

(1)善人である
とにかく純粋で誠実な方であることはよく伝わりました。講演中も実に楽しそうで、「いい人」であることはよくわかりました。研究者は論文より社会貢献を重視すべきとの信念の元(※1)、地元の小中学校と連携して様々な教育活動を行っているようです。

(2)実証性・批判精神に欠ける
講演の中で、「データがない」とか「今後の研究で明らかにしたい」という説明が頻繁に出ました。これ自体に問題はありません。しかし、この方は、「データがない」「明らかになっていない」内容に関しても断言していました。これは科学者として絶対にやってはいけないことです。根拠(データ)に基づき考えるという実証性が大いに欠落しています。
また、専門外の疑似科学をかなり無批判に受け入れているようでした。情報を批判的に検討して吟味するという考えがなく、何でもかんでも信じてしまう傾向が見て取れました。

(3)積極的で行動力がある
上に述べたように、様々な活動を行っているようです。大学教官としての業務を放り出しているのではないかと心配になるほどです(※1)。よくそこまで活動範囲を広げられるものだと感心しました。疑似科学さえ広めなければ、熱心かつ広範な活動を大いに称賛したいところです。

(4)世の中を良くしたいと思っている
環境・農業・食料・教育など様々な分野の現状を危惧し、少しでも世の中を良くするために活動したいという強い信念が伺えました。そのため、自分が有する知識・技術を世の中に提供することに喜びを感じ、それが自分の使命であると信じているようです。

(5)教育に関心がある
子供の笑顔、成長ぶりを見るのが何よりの楽しみであることが見て取れました。また、世の中を変える方法として教育を重視しています。教育を変えることで子供が変わり、子供を通じて大人が変わることで世の中が変わると信じているようです。

(6)自分を批判する人間が理解できない
上に述べたように、最後の質疑応答の際にかなり厳しい質問をしました。すると、明らかに「キョトン」とした顔をしており、説明も要領を得ないものでした。邪推するに、「自分は正しいことをしているのになぜ批判されるのか?」とか「自分の善意を理解しないこいつは一体何を考えているのか?」という心境だったのでしょう。虚を突かれてしまったのだと思います(※2)。

データがあるわけではありませんが、ここに挙げた特徴は、教育現場に疑似科学を持ち込む人に当てはまることが多いように感じます(実証性がどうのこうのと自分で言っておきながらこういう主観的な表現を用いるのはいかがなものかと思いますが)。「いい人」=「正しい人」とは限らないという身も蓋もない厳しい真実です。善意でやっているだけに手に負えません。
こういう連中は世の中にいくらでもいるでしょうから(これも主観に過ぎませんが)、残念ながら教育現場に疑似科学が持ち込まれることは止められないだろうと思います。一つ一つ潰していくしかありませんが、そうすれば確実に関係者の恨みを買うので割に合いません。善意は否定されれば憎悪に変わりますので。


以上、見当違いの善意で動く人は傍迷惑だというお話でした。


(※1)国立情報学研究所の論文検索システムや所属大学のサイトで調べたところ、論文は少ないようです。本業を疎かにしていると言われても仕方がありません。
(※2)プロの研究者が素人の私に突っ込まれる時点でかなりダメです。私以外の方からも厳しい質問を受けていましたが、それに対する回答もやはり要領を得ないものでした。


9/26 追記
指摘を受けて一部の表現を改めました。ご指摘に感謝します。
念のために補足説明しておくと、学会は会誌の論文に対しては査読審査を行いますが、大会での発表に対しては査読審査を行わないところがほとんどです。事前に発表内容の要旨を提出する必要はありますが、この要旨に対しても審査は行われません。つまり、内容は事実上の野放しです。
私は学生時代に海外も含めて複数の学会で発表を行いましたが、内容の審査は一度もありませんでした。
査読が行われないので、学会発表はほとんど業績とは認められません。

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