バッタもん日記

人生は短い。働いている暇はない。知識と駄洒落と下ネタこそ我が人生。

EM菌は放射性物質を減らさない

福島県は土壌にEM菌資材を投入したら放射性物質が減少するかどうかを圃場試験により検証していましたが、その結果が公表されました。
農用地等における「民間等提案型放射性物質除去・低減技術実証試験事業」試験結果について(第2報)(福島県農林水産部)

個人的には全く予想通りです。土壌学や肥料学は門外漢ですので専門的な解説はできませんが、土壌中の放射性セシウムの量を減少させる効果がなかったのは当然です。

一方、EM菌資材作物への放射性セシウムの移行率を低減させる効果が確認されました。しかし、これは「EMオーガアグリシステム標準たい肥」に特有の効果ではなく、カリウムの効果だと思います。要点を箇条書きにします。

○「無処理」と比較して、「囲炉裏灰」は強い効果があり、「微粉ハイポネックス」と「対照 塩化カリウム」は弱い効果があった。
○これら4資材の成分上の違いは酸化カリウムのみである。
○酸化カリウムの濃度は、「無処理」と比較して、「囲炉裏灰」では非常に高く、「微粉ハイポネックス」と「対照 塩化カリウム」では高かった。
○これら4資材では酸化カリウム濃度の高低と効果の強弱は一致している。
○「EMオーガアグリシステム標準たい肥」の効果は「囲炉裏灰」を上回っていない。
○以上よりこの効果は酸化カリウムによるものであると考えられる。(※)

もともと専門家より、土壌にカリウムを大量投入すれば作物への放射性セシウムの移行率を低減させることができるという報告はなされておりました。
堆肥の継続的な施用が飼料用トウモロコシへの放射性セシウムの移行抑制に有効であることが判明(畜産草地研究所)

今回の結果はEM菌の効果を否定していますが、EM菌は既に大きなビジネスと化しており、数多くの信者を生んでおります。親玉の比嘉照夫氏や有象無象の信者はこの結果を無視するか、あるいは権力による捏造・弾圧だと批判するか、強引に曲解して「作物への移行を押さえる効果が科学的に証明された」と喧伝するかのいずれかでしょうね。

(※)
本音を言うと、塩化カリウム投入区は3段階ぐらい設けて欲しかったところです。そうすればEM菌資材には何の効果もないこと(カリウムの効果に過ぎないこと)をさらに強い根拠を持って断言できますし、カリウムの効果が頭打ちになる投入水準もわかりますから。


5/19 追記
EM業者はやはり予想通り実にわかりやすい牽強付会な発表を行っておりました。
速報 EMオーガアグリシステムによる農産物への放射性セシウムの移行抑制効果を実証 福島県農林水産部が成果を発表(WEBエコ・ピュア)
結果を都合良く捻じ曲げて解釈している(一部の結果を隠蔽している)上に、詳細を確認できないように出典を隠しています。信者は信じてしまうのでしょう。

この実験にさらに注文を付けるとすれば、「EM菌資材区」の窒素・リン酸・カリウムの投入量を他の区と揃えて欲しかったところです。そうすれば「EM菌資材」の効果かカリウムの効果かをよりはっきり区別できるので。

この実験は、大きな不備があるとは言い切れないまでも、科学的水準は高いとは言えません。曲解される隙、批判を受ける隙があります。もう少し実験計画を綿密に策定して欲しかったと思います。ただし、学術誌に論文として投稿する、というわけではなくある種の緊急速報なので、取りあえずは良しとしましょう。

5/20 さらに追記
日本土壌肥料学会が、昨年春の時点でカリウムを投入することで作物によるセシウムの吸収を抑えることができるとの情報を発信しています。
原発事故関連情報(2):セシウム(Cs)の土壌でのふるまいと農作物への移行
放射性セシウムに関する一般の方むけのQ&Aによる解説
日本最大最強の土壌学・肥料学の専門家集団がこうして情報を発信しているのに、なぜわざわざEM菌などを信じるのでしょうか。

蛇足ながら結論を強調しておくと、
○EM菌資材には土壌中の放射性セシウムを減少させる効果はない
○EM菌資材には作物による放射性セシウムの吸収を抑える効果がある
○しかしそれはEM菌資材に特有の効果ではなくカリウムの効果である
○EM菌資材を使う必要はない(カリウム資材を使えば良い)

ということです。