映画や漫画の影響か、「奇跡のリンゴ」が注目されております。
そのため、昨年2月に書いた批判記事にかなりのアクセスがあり、コメントも多数もらいました。
『「奇跡のリンゴ」ならば「化学物質過敏症」の患者でも食べられる』と指摘するコメントに対する反論として、私は以下のように述べました。
医学的には「化学物質過敏症」という病気そのものの存在が疑われており、単なる心理的影響、つまりはただの思い込みではないかという説もあるようですね。
これに対して、「化学物質過敏症」の当事者が以下のように述べています。
農薬や肥料の話しは兎も角、化学物質過敏症自体を否定って、苦しんでいる人も嘘つきってことですかね。化学物質過敏症の場合、包材なんかで反応する事があるからムズい(twitter)
正直に言いまして、不用意で説明不足の発言だったと思います。これにより他者を傷つけたことは事実です。いささか後ろめたいし、誤解されたまま恨まれるのは不本意なので、多少の言い訳を述べます。政治家答弁だとか「東大話法」だとか言われそうですが。ちなみに私は東大卒ではありません。
まず、私の真意を列挙します。
人工化学物質の有害性は否定していない
私は中学生まで慢性副鼻腔炎を患っており、臭いに鈍感でした。数年間耳鼻科医通いを続けた結果、完治しました。今では逆に臭いに敏感になりました。そして私は頭痛持ちです。有機溶媒(塗料とか接着剤とか)の臭いが漂う場所にしばらくいて、頭痛その他の体調不良を起こした経験も何度かあります。そのため、私は「シックハウス症候群」は医学的に事実だろうと思っています。つまり、人工化学物質が健康に悪影響を及ぼすことは疑いようのない事実だと考えます。しかし、これと「化学物質過敏症」は全く別の話だと思います。
当事者の体調不良は否定していない
人工化学物質が原因であるかどうかは不明ですが、何らかの原因により体調不良が発生していることは事実だと思います。体調が悪いかどうかは本人にしかわかりません。原因が何であれ本人が「体調が悪い」と感じているのならば、それは紛れもない事実であり、否定する意図は断じてありません。
「化学物質過敏症」という病名は不正確である
私はプチ権威主義者ですので、科学に関する情報の信頼性は、発信元の信頼性を基準として判断します。
Googleで「化学物質過敏症」を検索すると、やや首を傾げたくなります。学会とか厚生労働省とか、信頼できそうな組織による情報があまりに少ないのです。信頼性に欠ける情報ならばいくらでも見つかりますが。
日本語の論文を検索しても、査読審査をパスした医学論文でこの病気を肯定している物は少ないな、という印象を受けます。
この論文なんて、「化学物質過敏症の原因は化学物質ではない」「患者が化学物質に曝されていると思わない限り症状は出ない」「心理的な影響を考えるべき」とまで述べています。科学者ですので断言はしていませんが。
以上より、「化学物質過敏症」という概念は医学的な根拠に乏しいと判断しました。
「思い込み」は「仮病」という意味ではない
「単なる」とか「ただの」という表現が症状を軽視しているかのような印象を与え、誤解を招いたのかも知れません。「思い込み」とは、あくまで「体調不良の原因が人工化学物質であると思い込んでいる」、言い換えれば「体調不良の原因が人工化学物質であるという考えは根拠がない」という意味です。「体調不良そのものが思い込みである」、つまり「どこも悪くないのに体調不良だと言い張っている」という意味ではありません。体調不良に苦しむ方々を嘘つき呼ばわりする意図は断じてありません。
また、何らかの心因性の体調不良の可能性もある、という意味も込めております。ストレスを含めて、心理状態が体調に影響を及ぼすことは大いに考えられますから。だからこそ「心理的影響」と表現したのです。
まとめると、私が疑問を呈しているのは「化学物質過敏症」という病名、「人工化学物質が体調不良の原因である」という考えであり、症状そのものではありません。病名や原因が何であれ、症状は事実だろうと思います。
申し開きは以上です。蛇足ながら最後に。
「化学物質過敏症」の原因が農薬であると主張することは、少なくとも現状では農家や農薬メーカーに対する不当な言い掛かりであるということは心に留めておいた方がいいと思います。
参考(どちらもNATROM医師)
何を否定し、何を否定していないか
香水の自粛のお願いに化学物質過敏症を持ち出さないほうがいい