バッタもん日記

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植物の「奇形」は本当に増加しているのか? その1

昨年の福島原発の事故以降、放射線の影響により植物の奇形が増えているといううわさが根強く広まっています。大抵の場合は「証拠画像」が提示されますが、これを見る度に首を傾げてしまいます。「これはただの自然現象ではないのか」と。今回はこの噂を批判的に検証してみます。


1.はじめに
最初に強調しておきたいことは、植物は結構不安定でいい加減な生き物だということです。変てこな植物が見つかるのは、ごく普通のことです。これを念頭に置かないと、変った植物を見た時に、安易に「奇形だ」という判断を下してしまいます。
また、「奇形だ」と騒いでいる方々が、普段から意識して植物を観察しているか否かという点が大いに疑問です。原発事故以前はあまり植物に関心がなかったのに、事故後に「奇形が発生しているに違いない」という予断を持って植物を観察しているケースがあまりに多いようです。

そもそも、「原発事故の影響で植物の奇形が増えた」と主張するためには、少なくとも以下の2点が必要です。
○昨年春以降に植物の奇形発生率・奇形程度が上昇したことを統計データにより証明すること
○現在の日本各地のようなごく弱い放射線量でも植物の奇形発生率・奇形程度が上昇することを実験で証明すること
ところが、こんな証明をした人は全くいません。つまり、この噂は現時点では何の証拠もありません。それなのに、半ば確定した事実であるかのように広まってしまっています。


2.奇形の定義
上に述べたように、植物というのは実にいい加減な存在です。

まず、分類が難しい。「種」の下の分類基準で、「亜種」「変種」「品種」「園芸品種」など色々あり、私にもよくわかりません。
日本のアブラナ(学名:Brassica rapa)は西洋アブラナBrassica napus)とは別種であるとされています。ところが、何とカブ、ハクサイ、チンゲンサイコマツナとは同じ種(Brassica rapa)であるとされています。何が何だかわかりませんね。当然ながら同種間では簡単に雑種ができます。ちなみに、同じアブラナ科でもキャベツ(Brassica oleracea)やダイコン(Raphanus sativus)は別種です。

人間(Homo sapiens)は現在地球上に70億人ほどいますが、生物学的には種内変異(種内多様性)は非常に低いそうです。それでも世界中に多種多様な人間がいるわけです。たったの1種なのにこれです。種の壁を簡単に乗り越えてしまう植物では、どんな変てこな変異が現れても不思議ではありませんね。
となると、変てこな植物が見つかっても、それは異常な物ではなく、通常の範囲内の変異である可能性があります。

また、自然現象として突然変異を起こすこともよくあります。体の一部が突然変異を起こした場合、「枝変わり」と呼ばれて、品種改良に利用されることもあります。

さらに言うと、「品種改良」という行為は、「奇形」を増幅させることです。
例えば、リンゴを考えてみましょう。自然界では、我々が普段食べているようなリンゴは存在しません。あれほど味が良くて大きなリンゴがもし存在すれば、動物に食べつくされてしまいます。極めて異常な植物です。味が良くなるように、大きくなるように、という改良を受けているのです。つまり、我々が普段食べているのは全て奇形のリンゴなのです。
動物を例に採ると、江戸時代の日本人にブルドッグホルスタインを見せると奇形の犬と牛だと思うでしょうね。

次に挙げる「奇形」の多様性も併せて考えると、植物の「奇形」の定義などできないような気がします。どのような「奇形」が見付かったら、「放射線の影響だ」と断定できるのでしょうか。


3.「奇形」のバリエーション
植物の奇形は、以下のような様々な理由で簡単に発生します。
(1)病気
最も多い例ではないでしょうか。細菌・ウィルス・カビ・線虫など色々な病原体により引き起こされます。葉に斑点や模様ができる物、葉が萎れたり枯れたり縮んだりする物など、色々です。わかりやすいのはさび病画像検索)などでしょうか。
(2)虫食い
意外に思うかもしれませんが、これにも色々なパターンがあります。単純に葉に穴が開く物から、筋が付く物、表皮が剥がれる物など。面白いのはハモグリバエ類による虫食い(画像検索)です。
(3)虫こぶ
昆虫が卵を産み付けた際の刺激により、異常な発達をした植物組織を指します。同様に画像検索するとこうなります。一目瞭然ですね。
(4)生理障害
温度・水分・日当たり・肥料などの条件の不良により起こります。例えばトマトでは低温による果実の奇形が起こりやすいようです。
(5)単なる変異(多様性)
イチョウやヤツデの葉の形態(切れ込みの数)が奇形の実例だと挙げられることもあります。
しかし、ヤツデの葉の切れ込みの数は元々パターンが多い上に、株の成長とともに増えて行くとされております。
イチョウの葉も元々切れ込みの数にはパターンが多いようです(画像検索)。
アサガオの品種改良の技術は日本が世界一で、驚くほど多種多様な品種を生み出しています。(参考:アサガオホームページ(九州大学理学部 仁田坂英二博士)
(6)物理的要因
ダイコンやニンジンのような根菜類では、土の中に小石や固い部分があると、そこから枝分かれしてしまいます。「セクシー大根」で画像検索すると幸せになれるかもしれません。

植物の「奇形」が原発事故の影響で発生したと証明するには、その「奇形」が上記のどれにも当てはまらず、放射線の影響であることを証明しなければなりません。果たして可能でしょうか。


次回は、上記の奇形の実例を見ながら、噂を検証したいと思います。