バッタもん日記

人生は短い。働いている暇はない。知識と駄洒落と下ネタこそ我が人生。

耕作放棄地 その4

私見ですが、耕作放棄地の管理は2つに分けられます。「いずれ農地に戻すことを前提とする」場合と、「農地に戻さない」場合です。この2つの場合について説明します。東大の研究者に「両者は厳密には区別できない。両立は可能だ」と指摘されましたが、便宜上乱暴に2つに分けます。また、耕作放棄地の管理とは言っても用水路や農道、畦畔などの農業インフラの維持も重要ですが、ここでは植生の管理について考えます。

(1)いずれ農地に戻す
採算が合わないとか人手が足りないから等の理由で今は放置しているが、いずれは農業を再開したいと農家が考えている状況です。

繰り返し述べているように、農地を放置するとあっという間に草ぼうぼうになって荒廃します。荒廃した農地は害虫、雑草、鳥獣害の原因になり、周辺の農地が被害を受けます。また、数年経つとススキやヨシのような多年生で大型の雑草が生えます。これらの雑草は地下茎や根を発達させるので、駆除するには地下まで処理しなければなりません。よって、農地に戻すのに時間やコストがかかります。これを避けるためには、背の低い芝生のような植生を維持する必要があります。その方法を述べます。

(1-1)除草剤
基本中の基本で手軽です。しかし、当然ながら除草剤のコストと人件費がかかります。また、環境保全の観点から、除草剤の使用料ははできるだけ減らさなければなりません。よって、いつどのような除草剤をどれぐらいまけばいいのか研究が進められています。
(1-2)草刈り機
これも基本です。除草剤同様に機械や燃料のコストと人件費がかかります。そのため、どれぐらいの頻度で草刈りをすればいいのか研究が進められています。
(1-3)家畜の放牧
先日説明したとおりです。

(2)農地に戻さない
農業を再開できる見込みがない状況です。この場合、生物多様性を重視した管理が必要となります。

(2-1)農地生態系を維持
先日説明したように、日本の環境では、国土はほとんど森林になるので、日本本来の生態系とはほぼ森林生態系を意味します。ところが、数千年に渡って農業が行われた結果、日本各地で農地生態系とでも言うべき独特の生態系が成立しています。いわゆる「里山」に当たります。絶滅が心配されている生物は、里山にしかいないものが意外に多いのです。例えば、トンボ類は水がなければ生きていけませんが、水田に水を入れたり抜いたりするサイクルに適応したトンボもいます。

生物学では、「裸地→草原→森林」と植生が変化することを植生遷移と言います。人間による環境の改変が行われない限り、植生は最終的な状態である「極相林」へと変化します。
里山は、人為的に植生遷移をコントロールした結果生まれた半人工・半自然の環境です。したがって、人間が管理しなければ極相林へと変化します。近年、農業の構造変化と衰退により、里山の極相林化が進んでいます。
里山の保護活動が全国的に広がっていますが、これは事実上耕作放棄地の管理と同義です。

追加
最近全国的に問題になっているのが、水生生物の減少です。
もともと日本は雨が多いため湿地が多く、湿地性の生物が豊富です。稲作の導入以降、湿地はほとんど水田になりました。水田は水を大量に消費するため、特に瀬戸内海沿岸域などの降水量が少ない地域ではため池が併設されるのが通常です。日本の水生生物は、水田とため池が支えていたわけです。水田稲作の衰退による水田とため池の荒廃が水生生物の減少の大きな原因となっております。
参考
トンボの生息環境としてのため池の特徴
ため池の多様なトンボ類を守るためには、池の環境だけではなく、池の配置も重要です(両方とも農業環境技術研究所

(2-2)森林に戻す
耕作放棄地は数十年も放置すれば、植生遷移の結果完全に森林になります。よって、この場合には特別な管理は必要ありません。ただし、最初に述べたような問題は避けられません。
また、セイタカアワダチソウやクズ、ササのような植生遷移を妨げる植物の管理が必要になります。


耕作放棄地の管理で一番の問題は、何といってもコストです。金を生まない土地の管理に金を使うのはなかなか難しいのです。