バッタもん日記

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人間は雑食動物です その1

マクロビオティック系やベジタリアン系のトンデモさんの中には、「人間はもともと草食動物だ」と主張する人が多いようです。今回は人間が雑食動物であることを明らかにし、その主張を批判的に考察してみます。「草食動物」「雑食動物」というものの定義も難しいですが、あまり気にしないで下さい。参考文献は最後にまとめて載せます。

(1)餌の分類
哺乳類の餌は、次の4つに大きく分かれます。ここでの栄養価とは、エネルギーとタンパク質の含有量だとお考え下さい。なおこの分類は一般的な傾向に過ぎず、例外もあります。

1.植物質
1-1 茎や葉
栄養価や消化率が低く、食物としての価値は低い。大量に存在するため、入手は容易。(若葉や新芽は栄養価や消化率が高いので、別の扱いが必要となることもあります)
1-2 果実や種子
栄養価や消化率はやや高く、食物としての価値はやや高い。存在する時期や場所が制限されるため、入手はやや困難。
2.動物質
2-1 昆虫類
栄養価や消化率は高く、食物としての価値は高い。生きて動いている物を捕獲しなければならないため、入手は困難。
2-2 哺乳類
栄養価や消化率は非常に高く、食物としての価値は非常に高い。入手はさらに困難。

ヒト科では、ゴリラは1-1と1-2が主体で2-1が少し、人間とチンパンジーは1-2が主体で1-1と2-1、2-2が少しです。霊長類の基本は2-1で、そこから様々に分岐したようです。
なお、ゴリラは地域により生息環境が大きく異なり、それによって食性も変化します。果実が豊富な環境では果実が主食となり、果実が少ない環境では茎や葉が主食となります。

人間の本来の主食は、チンパンジーと同様に果実です。
人間はチンパンジーと同様に、体内でビタミンC(アスコルビン酸)を合成することができないので、果実から摂取します。逆に言うと、突然変異によりビタミンCを合成できなくなっても主食である果実から十分摂取できるので、不都合がなかったのです。

また、人間は哺乳類の中では色の識別能力が高いとされています。これは、果物が熟しているかどうかを瞬時に判断するためです。
人間の消化力は弱いので、未熟な果実は食物として適していません。そのため、果実が熟しているかどうかを判断しなければなりません。その確認方法として毎回実際にかじっていたのでは効率が悪くなります。果実の見た目(色)で判断するのが最も時間が掛かりません。果実以外の食物は色で判断する必要がありません。したがって、哺乳類の色の識別能力は低いのが普通です。

現在の人間の主食は穀物(イネ科植物の種子)が一般的ですが、もともと霊長類はあまり穀物を食べないので、人間がいつ頃なぜ穀物を食べ始めたのかはよくわかっていません。イネ科植物が多いアフリカのサバンナに住む一部のヒヒが穀物を食べるぐらいのようです。
ネコジャラシエノコログサ類)を想像して下さい。品種改良を受けていない野生の穀物は固くて消化が悪いので、人間のように消化吸収力が低い動物には利用しにくいのです。
穀物食の起源については、今後の研究成果を待つ必要がありそうです。
余談ですが、エノコログサ穀物のアワの祖先種であるとされています。

(2)草食動物の苦労
上の1-1を主食としている動物について説明します。

植物の細胞壁の主成分であるセルロースやヘミセルロース、リグニンは非常に分解が困難で、哺乳類には消化できません。仕方がないので草食動物は、消化管を巨大化、複雑化させ、内部に微生物を住まわせて消化(発酵)させています。
ウシやヤギ、ヒツジなどの反すう動物は4つの胃を持っており、その中に膨大な量の微生物を住まわせて発酵を行っています。さらに、噛む→飲む込む→胃で消化→口に戻す→噛む……といった作業(反すう)を繰り返します。
ちなみに、反すう動物の胃内部では、微生物が植物を餌として増殖し、腸に流されます。そして腸内部で動物により消化吸収されます。だから、反すう動物は草食動物ではなく菌食動物と呼ぶべきなのではないかと言われることもあります。

よく知られているように、ウサギは自分の糞を食べます。反すう動物と違って、ウサギでは大型化した盲腸で微生物による発酵が起こります。人体の内臓図解などを想像してもらうとわかりやすいかと思いますが、盲腸は大腸の一部であり、消化管の終わりに近い部分です。したがって、十分な栄養分の吸収ができないまま糞として排泄されてしまいます。そこで、糞を食べることで今度は確実に栄養分を吸収するのです。

霊長類にも1-1を主食としているものはいますが、皆消化管が発達しています。
人間の消化管は小さくて単純なので、1-2、2-1、2-2のように栄養価や消化率の高い餌を本来の主食とする雑食動物であると考えられます。

また、植物はエネルギーが少ない上に消化吸収に時間がかかるので、草食動物はできるだけ動かず、エネルギーの消費を抑える必要があります。ナマケモノが怠け者なのは、木の葉を主食としているからです。同様に木の葉を主食としている霊長類も、一日の大半をじっとして過ごします。
つまり、草食動物は一日の大半を採食と消化吸収に充てなければならないので、知的行動を取る余裕がありません。人間の知性が発達した理由は色々ありますが、雑食性で価値の高い餌を食べていたために行動の自由度が高まったという点が挙げられると思います。
もう1つの大きな理由は次回説明します。
一方肉食動物では、餌の栄養価や消化率が高いので、消化管は小さく単純になっていますし、行動も制限されません。


その2
その3